ヴェンダースの尾道

1ヶ月ほど前、あるデザイナーの方をガイドした際に1冊の写真カタログをいただいた。
題して「ヴィム&ドナータ ヴェンダース写真展 尾道への旅」。
数年前、ヴェンダース夫妻が日本を旅した時の写真をもとに個展を開いたのは知っていたが(そして大変興味はあったのだが)、じっくり見る機会はなかった。尾道から近い岡山在住のその方は、私が以前「ベルリン・天使の詩」の舞台を訪ねたシリーズをブログに載せていたのを知っていて、たまたま手元にあったというカタログを持って来てくださったのだった。こういう目に見えない親和性というのはとてもうれしい。
ヴィム・ヴェンダースが撮ったThe Dead Treeというタイトルの冒頭の写真に思わず息を飲んだ。画面をゆったりと占める1本の枯木の存在感がすさまじい。その向こうには尾道の街並みと瀬戸内海が雄大に広がる。手前の分厚い雲と青空との不思議なコントラスト。そして、その狭間から一瞬のタイミングできらめく太陽の光。
確かに1枚の写真なのだが、映画のワンシーンのような、これから何かが動き出すような予感性に満ちているのだ(写真家の藤原新也氏は、隣のページで「はじまりの予感と終わりの余韻」と表現している)。
デザイナーのAさん(と仮にさせていただく)によると、この写真は浄土寺山という尾道の有名なビューポイントから撮影されたものらしいが、「尾道をこんな風に撮った人はいない」と地元の人々の間でも一時期話題になったそうだ。
カタログの冒頭で、ヴェンダース夫妻がメッセージを寄せている。夫人のドナータが「自分は自然体の人々を撮影する写真家だ」と述べているのに対して(「和の心」を感じさせる陰影豊かな彼女の写真も印象に残った)、ヴィムはこう語る。

私は風景を撮る写真家です。初めての土地に行って、自分の足で歩き回ることが何より好きです。そして、そこで写真を撮ることによって、私は何かを「発見」するのです。そのとき、私の見た街路、家並み、川、海、山は、特別な意味を帯びたものになる。私にとってそれらは、初めて出会ったその瞬間に見た風景とはもはやまったく違うものになっているのです。

枯木の写真に満ちた予感性とヴィム・ヴェンダースのメッセージから感じた共感。このブログの2009年の冒頭にぜひ書き記しておきたかった。



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12 Responses

  1. Tsu-bu
    Tsu-bu at · Reply

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    物語性に溢れた美しい写真ですね。
    「はじまりの予感」に満ち溢れた、新年の冒頭ににふさわしい1枚だと思いました。
    東京は晴天に恵まれ、穏やかな三が日を過ごしました。
    今年もよろしくお願いいたします。
    風邪お大事に。

  2. Tsu-bu
    Tsu-bu at · Reply

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    物語性に溢れた美しい写真ですね。
    「はじまりの予感」に満ち溢れた、新年の冒頭ににふさわしい1枚だと思いました。
    東京は晴天に恵まれ、穏やかな三が日を過ごしました。
    今年もよろしくお願いいたします。
    風邪お大事に。

  3. Urlicht
    Urlicht at · Reply

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    枯木の写真とてもすばらしいですね。
    またヴィム・ヴェンダースのメッセージも素敵です!
    いつも興味深いブログ楽しませていただいてます。
    また今年もちょこちょこおじゃましてコメント書かせていただきます。
    本年もどうぞよろしく!

  4. Urlicht
    Urlicht at · Reply

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    枯木の写真とてもすばらしいですね。
    またヴィム・ヴェンダースのメッセージも素敵です!
    いつも興味深いブログ楽しませていただいてます。
    また今年もちょこちょこおじゃましてコメント書かせていただきます。
    本年もどうぞよろしく!

  5. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    Tsu-buさん
    大きいサイズの写真でご紹介することはできませんでしたが、雰囲気は伝わったでしょうか。日本のお正月はやはりいいですよね。私の方でも、実家から送ってもらった「簡易おせちセット」(笑)で、せめてもの気分を味わいました。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    Tsu-buさん
    大きいサイズの写真でご紹介することはできませんでしたが、雰囲気は伝わったでしょうか。日本のお正月はやはりいいですよね。私の方でも、実家から送ってもらった「簡易おせちセット」(笑)で、せめてもの気分を味わいました。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    Urlichtさん
    コメントありがとうございます。これまでも何度かコメントをいただいていましたが、共和国宮殿で第9を聴かれたUrlichtさんでしょうか。今年もどうぞよろしくお願いします。

  8. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    Urlichtさん
    コメントありがとうございます。これまでも何度かコメントをいただいていましたが、共和国宮殿で第9を聴かれたUrlichtさんでしょうか。今年もどうぞよろしくお願いします。

  9. にわやま
    にわやま at · Reply

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    ごぶさたしてしまいました。本年もよろしくお願いします!
    これのプロデューサーはベルリン在住の日本人絵本作家Aさんです。
    彼女はヴェンダース夫妻を両方結婚前から知っている親友だそうで、
    私の同僚がが日本でその彼女の補佐をしていたので見にいきました。
    表参道ヒルズのギャラリー、作家夫婦もど派手な洋服に身を包んで
    来ていて、お客さんいっぱいでした。作品素敵でしたよ。
    そういえば数日前の日記に話が戻りますが、クス四重奏団、
    クラブウォーターゲートでコンサートありますね。
    (リンク貼ったらスパムになってしまいました。rbbhpに情報あります。)
    このクラブ行ったことありますか?シュプレーに浮いてて素敵です。
    こないだはここでフィリップ・ジョルダンがピアノ弾いてました。
    さすがrbbすごい。イエローラウンジに対抗?笑
    ではではまた近い内に!!!

  10. にわやま
    にわやま at · Reply

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    ごぶさたしてしまいました。本年もよろしくお願いします!
    これのプロデューサーはベルリン在住の日本人絵本作家Aさんです。
    彼女はヴェンダース夫妻を両方結婚前から知っている親友だそうで、
    私の同僚がが日本でその彼女の補佐をしていたので見にいきました。
    表参道ヒルズのギャラリー、作家夫婦もど派手な洋服に身を包んで
    来ていて、お客さんいっぱいでした。作品素敵でしたよ。
    そういえば数日前の日記に話が戻りますが、クス四重奏団、
    クラブウォーターゲートでコンサートありますね。
    (リンク貼ったらスパムになってしまいました。rbbhpに情報あります。)
    このクラブ行ったことありますか?シュプレーに浮いてて素敵です。
    こないだはここでフィリップ・ジョルダンがピアノ弾いてました。
    さすがrbbすごい。イエローラウンジに対抗?笑
    ではではまた近い内に!!!

  11. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    にわやまさん
    なるほど、そんなつながりがあったんですか。面白い!
    そのAさんのことはカタログでも紹介されていましたが、すごい方なのですね。夫妻の写真を見て、今尾道への情景が増しております。

    >クス四重奏団、クラブウォーターゲートでコンサートありますね。
    この広告、今日Uバーンで見ました!
    入場料も5ユーロだし、本当にイエローラウンジそっくりですね。
    実際はどうなのかな。15日の20時、時間があったら行ってみます。

  12. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    にわやまさん
    なるほど、そんなつながりがあったんですか。面白い!
    そのAさんのことはカタログでも紹介されていましたが、すごい方なのですね。夫妻の写真を見て、今尾道への情景が増しております。

    >クス四重奏団、クラブウォーターゲートでコンサートありますね。
    この広告、今日Uバーンで見ました!
    入場料も5ユーロだし、本当にイエローラウンジそっくりですね。
    実際はどうなのかな。15日の20時、時間があったら行ってみます。

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