昨年7月、ベルリンの中心部にフンボルト・フォーラムがオープンしました。かつてのベルリン王宮を再建する形を取りつつ、中身は芸術、文化、学術、教育をテーマとする複合文化施設として新たに誕生したのです。
この中にはプロイセン文化財団が運営する民族学博物館、アジア美術館という大規模なミュージアムに加えて、ベルリン市立博物館財団による「ベルリン・グローバル」という展示があります。ベルリン、さらにベルリンと世界とのつながりに重点を置いたこのユニークな展示を今回から2回に分けてご紹介したいと思います。
メインのエントランスホールから2階に上がると、そこが展示の入り口です。最初の部屋に入ると、Weltkugelという名の地球を思わせる大きなオブジェが真ん中に置かれています。「ベルリンで起きた多くの出来事は世界を変えました。世界で起きた多くのこともベルリンに影響を及ぼしました」とパンフレットに書かれているように、この都市の歴史をグローバルな視点で捉え直すことに展示の主眼が置かれています。入口で渡されるチップ付きのリストバンドを付け、それをいくつものポイントでかざして自分の考えや立場を表明しながら回るインターアクティブな手法を取っているのが特徴です。メディアガイドは12もの言語に対応しており、その中には日本語もありました。
続く部屋には、過去から現在までベルリンをモチーフにした大きな写真パネルが並べられています。この7枚の写真こそが、「ベルリン・グローバル」の展示テーマを表しています。すなわち、革命、自由空間、境界、娯楽、戦争、モード、相互的なつながり、というもの。
「革命」の部屋に入ってみましょう。中央に大きな円盤が置かれ、「歴史の車輪を回してみよう」とあります。これを数人で一緒に回すと、1848年、1918年、1989年といったベルリンの歴史を刻印した革命の出来事がスクリーンに映し出されます。
革命といえば、このベルリン王宮もまた革命の歴史と深く結びついた場所です。1848年の3月革命では、王宮前に押しかけた群衆のデモから市街戦に発展し、数百人の市民が犠牲になりました。1918年11月9日には、王宮「第四門」のバルコニーからカール・リープクネヒトが社会主義共和国の誕生を宣言し、皇帝ヴィルヘルム2世は退位します。そして1989年10月7日には、東ドイツの建国40周年の祝賀行事が行われた共和国宮殿の前に東独市民が抗議のために集まり、1ヶ月後のベルリンの壁崩壊へと至るのです。再建された王宮の中でこの展示を見ることによって、歴史の現場に立っているという実感を強くします。展示の数カ所には、Geschichte des Ortes(この場の歴史)という名の双眼鏡が置かれており、これを覗き込むとこの場所の起伏に富んだ歴史を知ることができます。
続く部屋のテーマは、「自由空間」。破壊と再生を繰り返してきたベルリンを特徴づけるのは、ヨーロッパの大都市の中でも例外的に多い空き地や余白の空間かもしれません。未知の部分が多いことは、自由や実験を尊ぶこの都市の空気ともつながっているのでしょう。サブカルチャー、性、宗教、芸術の自由もこの部屋のテーマです。
ベルリンの典型的な匂いを体験するというコーナーがありました。決していい匂いばかりではありませんでしたが(笑)、ベルリンあるあるを体験できます。
もうひとつ印象に残ったのは、路上に埋め込まれたお墓のインタスタレーション。「墓石」には6,20€/㎡と記されています。実はこれ、ベルリンの家賃高騰を批判して2016年にクロイツベルクの路上に無許可で埋められたアート作品なのだとか。近年、ベルリンから余白の部分が急激になくなり、限られた人しか家賃を支払えなくなっている現状に対してユーモラスに問いかけています。
フンボルト・フォーラムの「BERLIN GLOBAL」
公式サイトの日本語ページ
開館時間:
月、水、土、日10:00〜20:00
金、土10:00〜22:00
火曜定休