ブレヒトとコルンゴルト

ベルリナー・アンサンブルにて(2月23日)。
先週は充実した舞台作品を2本観ることができた。後になってふと気付いたのだが、奇しくも、両方ともナチズムと関わりのある作品だったので、ちょっとここに書いてみようと思う。
1本目はベルリナー・アンサンブルで観た「アルトゥロ・ウイの興隆(Der aufhaltsame Aufstieg des Arturo Ui) 」という演劇作品。かのベルトルト・ブレヒトが、1941年亡命先で書き上げた作品である。これをドイツ演劇界の巨匠、ハイナー・ミュラーが亡くなる直前に演出した。1995年のプレミエから人気が衰えることなく、今でも毎シーズン必ずといっていいほどこの劇場のレパートリーに入っている傑作舞台だ。昨年日本でも上演されたので、実際にご覧になった方もいるかもしれない。私は1時間ほど前に劇場に行ったのだが、すでに立見席しか買えなかった(これが何と2ユーロという安さ!)。
初めてこの作品を観にやって来てまずびっくりするのが、開演前、1人の男性が劇場のバルコニーで声高々に演説するパフォーマンスだ。マイクを通してなので、周囲に勢いよく響き渡る。「これは一体何なの?」 私が初めてこの作品を観た時、一緒に行ったオーストリア人に聞いたら、「おそらくヒトラーの最後の頃の演説だろう」とのこと。おそらく年配の俳優さんが演じているのだろうが、なるほど、確かにヒトラーのあの口調そのものだ。すごみがある。
なぜヒトラーかというと、実はこの作品、ヒトラーが権力を握るまでの過程を、1920年代のアメリカのギャングの世界に置き換え、皮肉たっぷりに描いたものであるからだ。ヒトラーであるウイの役を、マルティン・ヴトケ(Martin Wuttke)という俳優が演じるのだが、これがちょっと別格のすごさである。興奮させられ、呆気にとられ、そして笑える(言葉はあまりわからないのに・・)。ヴトケがいつまでこの超絶的な役を演じることができるかわからない今、機会があったら、ぜひご覧になることをおすすめしたい。音楽の使い方もおもしろかった。シューベルトの「魔王」で不気味に幕が開き、ヴェルディのオペラ(椿姫かな?)、曲名はわからなかったがどこかで聞いたことのあるロックのメロディーが何度も流れ、最後はワーグナーのオペラの断片が極めて効果的に使われる。ちなみに、先ほどの演説パフォーマンスは、終演後にも見ることができる。
                              Foto: Bernd Uhlig
2本目は、ベルリン・ドイツオペラで観た、コルンゴルトの「死の都(Die tote Stadt)」というオペラ作品。エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897-1957)の名前を知っていて、実際に聴いたことがあるという方は、かなりの通かもしれない。私も今まで実際に聴く機会はほとんどなかった。
コルンゴルトの生涯はとても興味深い。若い頃は早熟の天才としてウィーンに名を馳せ、10歳の時、あのマーラーからも絶賛されたという。ローデンバックの小説「死の都ブリュージュ」を下敷きにしたこのオペラは、何と23歳の時に作曲したものだ。音楽は妖しいばかりの美しさにあふれていて、とても大学4年生ぐらいの若者が書いたとは思えないほど筆が熟している。今回初めて聴いて本当にびっくりした。
しかし、ユダヤ人だったコルンゴルトは、ナチスが力を握ると活動の幅を次第に狭められていき、1934年アメリカに亡命。今度はハリウッドで、映画音楽の作曲家として活躍するのである。この作曲家に詳しい友達によると、「スターウォーズ」に代表されるハリウッド映画の壮麗な音楽は、コルンゴルトがこの時代書いた音楽に端を発するのだそうだ。
戦後、コルンゴルドはハリウッドの世界に嫌気が差してヨーロッパに戻るのだが、彼の後期ロマン派の作風はもはや受け入れられず、1957年、失意のうちに亡くなる。23歳で「死の都」のような驚くべき作品を書き上げたコルンゴルト。ハリウッドで才能を浪費(と言っていいのかわからないが)せず、もし、ヨーロッパに残って活動を続けていたらどうなっていたのだろう、との思いがよぎった。
ブレヒトの作品はナチスによって焚書の対象にされ、コルンゴルトの音楽はやはりナチスから「退廃芸術」の烙印を受けた。芸術を自由に享受できる時代のありがたさを思う。

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4 Responses

  1. pfaelzerwein
    pfaelzerwein at · Reply

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    場外へ向っての演説ですか。しかし、目的は明白にしろ起訴されないものですね。内容を慎重に選択しているのか、前後に何らかの枠組みを入れているのか?TVで記録映画を流す様にです。
    コルンゴールドの方はその正反対で、最近のように比較的Radio等でもしばしば流されると、時代錯誤な感じが強まります。まさにモーツァルトの生まれ変わりと言われた天才少年の面影は、実体のハッキリしない影のような存在です。

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >pfaelzerweinさん
    >しかし、目的は明白にしろ起訴されないものですね。
    私もそれはちょっと思いました。もうプレミエから10年経っていますが、最初の頃はどうだったんでしょうね。日本で公演を行った時は、無難に(?)会場のロビーで同じことをやったんだそうです。具体的にいつの演説なのか知りたかったんですが、チケットもぎりのお姉さんに聞いてもわかりませんでした。

    >実体のハッキリしない影のような存在
    なるほど。コルンゴルトは他の作品を実は何も知らないので、ぜひ聴いてみたいです。ヴァイオリン協奏曲とか、映画音楽の代表作あたりに興味があります。

  3. kiki
    kiki at · Reply

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    マサトさま。拙ブログへ訪問&コメント有難うございました!
    コルンゴルトの作品、わたしもほとんど知らなかったのですがVl&Pfの小品やVlコンチェルト、聴いてみました。悪くないですよ!映画音楽聴いてみたくなりました。

    大変充実したブログなので時間があるときゆっくり拝見させていただきますね!これからもどうぞよろしく!

  4. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >kikiさん
    こちらへのご訪問もありがとうございます。友達にコルンゴルトの映画音楽を研究テーマにしている人がいるので、今度ぜひCDを借りて聴いてみようと思っています。

    雑多な内容のブログですが、またお気軽にコメントいただけるとうれしいです。これからもよろしくお願いします!

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