「がんばれ、ブランデンブルク州!」(塚本晶子著)

前回、「ベルリンの壁崩壊」というおそらく今後も語り継がれるであろう輝かしい歴史の瞬間について書きましたが、18年後の現在、ベルリンとその周辺地域を覆う現実は、かなり厳しいものがあるのは確かだと思います。実際、旧東ドイツ地域に関するニュース(特に日本語を通して伝わるもの)には、ほとんど明るい話がありません。「教育水準の高い東出身の若い女性がどんどん西側に流れている」、「アンケートによると、再び壁が建設されることを望んでいる人がこれだけいる」、「ネオナチが台頭し、社会に不安の影が射している」等々。なるほど、それらは確かに事実かもしれません。でもだからといって、そういう暗い話ばかりが現実ではないだろうと、大雑把な報道の仕方に突っ込みを入れたくなるときがあります。
では、私が「新しい連邦州」と呼ばれる旧東ドイツ地域、もっと限定してベルリンの周辺地域の現実をどれだけ知っているかというと、正直心もとないのです。いくら巨大な負債を抱えていても、ベルリンは「ドイツの首都」という(ある意味)特権的な立場にあり、ここにずっといると、周辺の地域がやや見えにくくなるのは事実。相変わらず新しい建物はぼんぼん建っているし、一体この街のどこがそんなに貧乏なのかということさえ、時によくわからなくなります。
前置きが長くなりましたが、ベルリンを取り囲むブランデンブルク州のいまを知るための実に心強い1冊が出版されました。「がんばれ、ブランデンブルク州!」(作品社)という本です。筆者、塚本晶子さんは私の友達で、同じクロイツベルクに住むご近所さんでもあります。もともと旧東ドイツに全く興味がなかったという彼女は、ベルリンに来て出会ったパートナーがブランデンブルク州出身ということもあってこの地域に興味を抱くようになり、現在はフンボルト大学でジェンダー学とヨーロッパ民俗学を専攻しています。休みの度にブランデンブルク州のあちこちに自転車を持って出かけているという話は去年から聞いていましたが、あれよという間に1冊の本にまとめてしまいました(本と同名の彼女のブログはこちら)。

観光地でないブランデンブルク州は、予備知識なしで訪れると何も「見えない」ところです。しかしそれは「何もない」とは違います。この本では、街があり、歴史があり、人々の暮らしがある、私が「見た」ブランデンブルク州をご紹介します。

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と前書きにある通り、この本では「旧東ドイツの過去の悲劇」をことさら強調するのでもなく、ましてやアンケートや統計を整理しただけでもなく、彼女が実際に目で見て歩いたブランデンブルク州の現在が非常に地に足の付いた形で描かれています。
本ではまず、ブランデンブルク州の自然や人々、周辺地域を含めた基礎知識、旅する際の実用的な情報などが取り上げられます。続く「DDRを感じる旅」という章で紹介される「製鉄所の街アイゼンヒュッテンシュタット」と「石油コンビナートの街シュヴェート」は、まさにDDRと共に栄え衰退していった街ですが、私はこの本を読んで大変興味を持ちました。近いうちにぜひ行ってみたいと思ったほどです。
州南部に住む少数民族ソルブ人の話も関心を誘いますし、ベーリッツの特産品シュパーゲル(白アスパラ)についてもしっかり取り上げられています。かつての炭鉱地帯ラオジィッツの人口湖開発計画はヨーロッパ最大の地域開発事業と言われているのだとか。石炭採掘に使われたF60という宇宙ステーションのような超巨大マシンにはまさに唖然としました(こちらを参照)。
かつて、ブランデンブルク州はプロイセン王国の時代に、歴史の表舞台に立ったことがあります。この本ではあえて取り上げられていないポツダムのサンスーシ宮殿以外にも、プロイセン時代の宮殿が意外と残っていることを知りました。第11章の「Cゾーンの旅」では、ベルリンから気楽に訪れることのできるスポットが紹介されています。
本文の読みやすさも見逃せません。ブランデンブルクというと、ベルリンの「ブランデンブルク門」やバッハの「ブランデンブルク協奏曲」のイメージしかないという(私を含めた)多くの人も、まず間違いなく最後まで読み通せると思います。
ベルリンが好きという旅行者にはリピーターが多いような気がします。確かにベルリンだけでも何日と費やす価値はありますが、ときには市内を少し離れてみるのはいかがでしょう。それによって、ブランデンブルク州の海に浮かぶベルリンという島も、また違った風に眺められるかもしれません。本書はそのためのよきガイドとなるはずです。

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16 Responses

  1. ウーランド村
    ウーランド村 at · Reply

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    へえ、面白そうな本ですね。私も買って読んでみようっかな。。。
    私の職場が元東ドイツ出身者が大半を占めてるのもあって、東ドイツ関係には興味があります。

  2. paukenschlagzeu
    paukenschlagzeu at · Reply

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    こんにちは。アマゾンで昨日届いたところです(初版第1刷!)。東側だったところに数ヶ月ですが居る機会のあった私にはとても興味深い本だと思っています。旅行代理店のパンフレットにはけして出て来ないほうの(旧東)ドイツですが、魅力はたっぷりなんだろうと思います。早く帰って読もうっと。

  3. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    この本の存在は知りませんでした。是非読んでみたいと思います。
    私からも2冊、興味深い本を紹介いたしておきます。
    http://books.yahoo.co.jp/book_search/author?author=%BA%D8%C6%A3%B1%CD%BB%D2
    この2冊の本の著者、斎藤瑛子さんは長く東ベルリンに住んでいらっしゃった方です。この2冊の本の貴重な点は、あくまでも日本人的な感性であのDDRという国での生活、そしてその滅亡と人々の意識の変化を描いている点です。1983年の書かれた最初の本(「東ドイツの日常から」)から2冊目の本(「東ドイツへのレクイエム」)に至る斉藤さんの心の揺らぎ、心境の微妙な変化...それにご注目下さい。斉藤さんの書いているDDRという国について、私自身は幾分別の意見も持っていますが、しかしあの国(&東ベルリン)について「皮膚感覚」としては私が共感する点が非常に多いです。強くお薦めいたしておきます。

  4. KIKI-Brandenburg
    KIKI-Brandenburg at · Reply

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    著者でございます。

    紹介してくれてどうもありがとう!!
    一体どんな風に書かれるんだろうと、ドキドキしてたんだけど(^^;)、こんなに上手にまとめてくれるとは、まさとさんさすがプロ☆

    何かと暗いイメージが付きまとう旧東ドイツだけど、噛めば噛むほど味がある、面白い土地だと思います。ブランデンブルク州なら、ベルリンから日帰りで出かけられるし、観光地化されていないところを探検する楽しみというのがあるし。

    私の「フィールド」、ブランデンブルク州。鈍行電車にゴトゴト揺られ、チャリでせっせと周って、現地の人と接した、思い入れたっぷりの土地です。この地が好きだから、「ネオナチと失業」しか出てこない、日本における旧東ドイツの扱いに一石を投じたかったんです。ブランデンブルク州に対する私の愛が詰まった(笑)一冊、ぜひ読んでください。

  5. 鮭
    at · Reply

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    私も早速買ってみようと思います!
    私の知人のドイツ人はみんな西出身なので、東のことは分からないことだらけです。。。
    じっくり読ませていただきたいと思います。

  6. キートス
    キートス at · Reply

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    お友達なんですか?!!いやー、感動しますね。あの本、東京の本屋さんで見かけました。こういうの、本当は旧西ドイツの人に書いて欲しいです。それから、ドイツ語に翻訳すれば、とも思いました。ところで、Reinald Grebeっていう人、知ってますか?Kabarettistであって、名作は"Brandenburg"という歌。ドイツ語お分かりなので、youTubeでご覧ください:
    http://www.youtube.com/watch?v=v1p0neclHpo (歌詞に関するご質問には応じます・・・)
    ドイツ人(特にベルリン人?)が、Brandeburgに対する偏見を非常に上手く描いてます。シュヴェートも登場します。歌詞は、ベルリナーな僕はゲラゲラと笑えます。
    旧西ドイツの人の、旧東ドイツに関する知識は、無さ過ぎます。しかし最近は、丁寧にDDRの歴史を研究し、伝えようとする人もいますね。その代表は、Das Leben der Anderenという映画ですね。僕大好きです。祖父母は東ベルリンに住んでいて、父親はMauerの亡命者で、父をStasiがスカウトしようとしたため、Stasiファイルにも登場する僕ですが、Ostalgieには絶対にのれませんが・・・
    デュッセルドルフに出張中のキートスより。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >ウーランド村さん
    ウーランドさんのような職場で働いている方にとっては、きっと面白く読める本だと思いますよ。欲しい際は僕に直接言ってください。

  8. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >paukenschlagzeuさん
    早速買ってくださったんですね!paukenschlagzeuさんが滞在されていた街は、ザクセン・アンハルト州にあたるでしょうか?でもブランデンブルク州とはお隣同士ですし、読んで感じるところの多い本ではないかと思います。

  9. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >la_vera_storiaさん
    斎藤瑛子さんの本のご紹介、ありがとうございます!
    強く興味を抱きました。廃刊中だとは思いますが、何とか手に入れて読んでみたいです。

  10. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >KIKIさん
    いえいえ、こんなので喜んでもらえたのならよかったです。
    ブランデンブルク州はまさにドイツの秘境ですよね。自分としてはまず、アイゼンヒュッテッンシュタットとF60、「レトロな路面電車」あたりから攻めてみたいと思っています^^;)

  11. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >鮭さん
    そのうち東出身の人にも出会うことになるでしょうし、読んでおいて損にならない本だと思いますよ。

  12. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >キートスさん
    東京の本屋さんで見かけましたか!もし興味があったら僕に言ってくださいね。

    Reinald Grebeのあの歌は、実は一度友達の家で見せてもらったことがあるのですが、僕の理解不足であんまりたくさんは笑えませんでした・・・どうせなら笑いたいので、また聴きなおしてみます。

    >旧西ドイツの人の、旧東ドイツに関する知識は、無さ過ぎます。
    やはりそうですか。昨日も知り合いの西ベルリン出身のご夫婦と東の話題になったんですが、やはりネガティブなことばかりおっしゃっていました。

    >父をStasiがスカウトしようとしたため、Stasiファイルにも登場
    >する僕ですが
    えっ本当に?キートスさんにインタビューさせてもらったら、すごい話が聞けそう・・・。機会があったらよろしくお願いします(笑)

  13. pauken
    pauken at · Reply

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    いつも最後のgが入らないので、paukenにしました(オケではschlagzeugも演奏していますが)。ザクセン・アンハルト州もなかなかどうしてディープだと思います。33ページの「コロン畑」はベルリンからDBで移動する車窓からみた風景と同じでした。懐かしー!。一説ではネオナチの巣窟と言われて、ハンドボールの試合の日に酔ってトラムを揺するファンを見て「これかな?」と思い、エルベを渡って散歩に行けば周囲の見る目が気になり、と西では味わえない空気を感じました。もっと探検しておくべきでした。今からでも遅くないですよね?。

  14. KIKI-Brandenburg
    KIKI-Brandenburg at · Reply

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    >キートスさん

    ライナルト・グレーベの「ブランデンブルク」について、私のブログで取り上げました。よければご覧ください。

  15. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >paukenさん
    「コロン畑」というのは、面白い命名ですよね。私はあんまり意識して畑とかを見たことがありませんでした。あの本を持って旅したら、車窓からでもいろいろな発見がありそうです。paukenさんもぜひまた探検してください!

  16. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >KIKIさん
    早速あの歌を取り上げてくれて、しかも訳までしてくれて、まさに感涙ものです!ポーランドから帰って来たらじっくり聴きます。

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