音の記憶を探し求めて – 旧フィルハーモニー跡 –

Alte-Philharmonie(10月24日)
現在のベルリン・フィルハーモニーと同じく、旧フィルハーモニーも、ポツダム広場からほど近い場所にあった。戦前、Uバーンのポツダム広場の駅を上がると、目の前にはHaus Vaterland(「父なる国の家」)という名の有名な歓楽施設が立っていた。そこを横目に、南側のケーテナー通り(Köthener Str)を歩いていこう。この辺りに戦前から残っている建物としては、「ハンザ音響スタジオ」でご紹介したマイスターザールぐらいだろうか。
参照:
天使の降りた場所(9) – 戦前のポツダム広場を歩く – (2006-10-05)
伝説のハンザ・スタジオ (2008-04-30)
最初に見える横道を左折すると、これがベルンブルガー通り。この界隈はクロイツベルクの西端にあたり、低所得者層の外国人住民が多い印象を受ける。昔日の面影は、やはり皆無に等しい。
やがて右手に見えてくるこのアーチの向こうに、1944年までベルリン・フィルの本拠地が建っていた。ポツダム広場から5分強。戦前の大ターミナルだったアンハルター駅からも徒歩5分の距離ゆえ、当時は一等地だったことがわかる。
前回ご紹介した映画『帝国オーケストラ』で、エーリヒ・ハルトマンが1943年にベルリン・フィルのオーディションを受けにやって来た日のことを語るシーンがある。「ベルリンは私にとって未知の都市だった。アンハルター駅で降り、母たちに付き添ってもらい、自分はコントラバスを担いで急いでフィルハーモニーに向かったんだ」
アーチを後ろに見ながら歩いて行くと、そこが中庭。やがてフィルハーモニーが目の前にそびえる。このアングルからの映像は、『帝国オーケストラ』の中でも紹介されるので、ぜひご覧いただきたいところ。
戦前の絵葉書より。この中で聴くブラームスがどんなにすばらしかったであろうかは想像に難くない。タイムマシンがあったら、自分ならベルリンで行きたい場所の3本指に入れるだろう!
現在は、学生寮とスーパー、アパートなどに囲まれた、ただの中庭の空き地でしかない。しかし何も建てられなかったがゆえに、ここを訪れる者は記憶の響きを想像する余地が残されているように思う。
その響きとは、フルトヴェングラーの指揮するベートーヴェンだろうか。それとも、フィルハーモニーが崩れ去る日の夜の爆撃音だろうか。おそらく今も残るホール唯一の残骸を眺めながら・・・。
帝国オーケストラ ディレクターズカット版公式サイト
ベルリン・フィル創立125周年記念第一弾 10月下旬より渋谷・ユーロスペース他全国順次公開



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One Response

  1. berlin_author
    berlin_author at · Reply

    Commented by la_vera_storia at 2008-11-08 17:32 x
    マサトさん、よくぞこの建物の土台近くの残存物を御紹介いただきました。私はこの一部を叩き割り断片にして、それを今でも自宅にかざってあるほどですよ(笑)。他の掲示板でもそのことを書いたことがあります。

    Commented by la_vera_storia at 2008-11-08 18:00 x
    この場所は東西分断時代には壁に近かったこともあり場末感が漂い、スラム化一歩手前という雰囲気でした。ここを私は、生まれて初めてベルリンに来た33年前には、到着したその日に早速やってきたわけでした(笑)。ベルリンにおける音楽ファンの大事な巡礼地の一つですからね。

    Commented by la_vera_storia at 2008-11-08 18:12 x
    33年前にはここは小さく貧相な池がありました。また当時は地面に場所の由来を示すプレートなどありませんでしたし、通りの側からのアーチもありませんでした。確か五十年代前半頃まで建物は廃墟のままで残されていたそうですね。

    Commented by berlinHbf at 2008-11-08 23:01 x
    >la_vera_storiaさん
    この場所の分断時代の様子、とても興味深く拝読しました。
    >場末感が漂い、スラム化一歩手前という雰囲気
    やはりそうでしたか。ところで、33年前というと1975年でしょうか。私はその年の8月に生まれたので、思わずこの数字に反応してしまいました(笑)。 当時は池があったのですか・・・。

    Commented by nem_ran at 2008-11-09 10:31 x
    遅ればせながらご結婚おめでとうございます。
    去年8月、ここに案内していただきましたが、そのとき撮った残存物の写真をティタニアパラストの写真などと一緒にときどき眺めております。la_vera_storiaさんのコメントにあるように、音楽ファン(マニア?)にとっては聖地ですよね。
    今、これを昨夜NHKBShiでやってた今年のワルトビューネコンサートの録画を見ながら書いてますが、またベルリン行きたいという気持ちが高まって困っております。

    Commented by berlinHbf at 2008-11-10 03:28 x
    >nem_ranさん
    お祝いのお言葉ありがとうございます。
    >去年8月、ここに案内していただきましたが、
    そうでしたね。天気のいい日にご案内できてよかったです。またいつでもご案内できるように、マニアックな音楽史跡を開拓しておきます^^;)。

    ドゥダメルのコンサートが放映されたんですね。私ももう一度観直したいです。

    Commented by gramophon at 2008-11-10 12:23 x
    いまだに此処だけは行けてません。
    元は屋内スケート場だったものを、音楽ホールに改装したとは云え、
    相当音響もよかったのでしょう。78回転盤からも片鱗が伺えます。
    何せニキッシュやフルトヴェングラー縁の地ですからね。

    Commented by la_vera_storia at 2008-11-10 18:52 x
    昔聞いた話ですが、事情通に言わせると、この旧フィルハーモニーは現在のアムステルダムのコンセルトへボウよりも音の面では素晴らしかったという人もいたそうです。

    Commented by berlinHbf at 2008-11-11 06:21 x
    >gramophonさん
    戦前の録音にこれだけ詳しいgramophonさんですから、この地にはぜひ一度足を運んでいただきたいですね。10月の蓄音機のイベントに行けなかったのが残念です。

    Commented by berlinHbf at 2008-11-11 06:24 x
    >la_vera_storiaさん
    コンセルトヘボウは一度だけ本拠地で体験したことがありましたが、それはすばらしかったです。それをさらに上回るとは、一体どんな響きがしたのでしょう・・・。

    Commented by 焼きそうせいじ at 2008-11-11 12:26 x
    私は80年代にベルリンに住んでいたときには、この旧フィルハーモニーを探すことをしませんでした。ティタニア・パラストも外から眺めただけ、イエス・キリスト教会は、大学のすぐ近くでしたが、一度通りがかっただけでした。ヒストリカル録音のファンとしては、ずいぶんと怠け者であったわけです。

    2004年に、フルトヴェングラーの熱心なファンの方を案内した際に、旧フィルハーモニーの敷地とイエスキリスト教会の中に初めて入りました。私のHP(上記リンク先)に、その方が撮った写真と、la_vera_storiaさんの投稿が掲載されています。

    Commented by la_vera_storia at 2008-11-12 10:03 x
    マサトさん
    ベルリンのマニアックな音楽史跡の開拓でしたら私も大好きです。 といいますか、このベルンブルガー通りですら、もう十分マニアックなわけですよ。フルトヴェングラーやベルリンフィルのファンですら、あえてこの場所を訪ねるというのは我々日本人だけでしょうね(笑)。 たとえば、ある方のお書きになっているページ(私の名前の部分をクリックして下さい)は、かなりマニアックです。なかなかやりますね、この方、素晴らしい!

    Commented by berlinHbf at 2008-11-13 09:34 x
    >焼きそうせいじさん
    赤道近くの新天地に移られた焼きそうせいじさんと、相変わらずベルリンの昔の話をリアルタイムでしていることが、何だか不思議なことに感じられました(笑)。

    >2004年に、フルトヴェングラーの熱心なファンの方を案内した際に、
    バレンボイムがフルトヴェングラーの自作を指揮した時ですね。「彼は不幸なことに作曲までした」と語っていたあの方と、先日久々に電話でお話しました。

    Commented by berlinHbf at 2008-11-13 09:43 x
    >la_vera_storiaさん
    >ベルリンのマニアックな音楽史跡の開拓でしたら私も大好きです。
    教えていただいたリンクにはびっくりしました(レオ・ボルヒャルト云々も気になります。また教えてください)。la_vera_storiaさんを唸らせるためには、相当なものを見つけなければなりませんが、がんばりたいと思います(笑)。

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