世界遺産になったファーグス工場の写真展

南東から見たファーグス工場。1928年、アルベルト・レンガー=パッチュ撮影
©Albert Renger-Patzsch Archiv – Ann und Jürgen Wilde, Zülpich / VG Bild-Kunst Bonn 2011, Bauhaus-Archiv Berlin

この6月、日本の平泉と小笠原諸島が世界遺産に登録されて話題になりましたが、ドイツでも3カ所が新たに世界遺産入りを果たしました。その1つ、今回ご紹介するファーグス工場(Fagus-Werk)は、ニーダーザクセン州アルフェルトにある靴型製造工場。今からちょうど100年前の1911年、後にバウハウスを創設する建築家ヴァルター・グロピウスが、アドルフ・マイヤーと共に設計した画期的な建造物です。
現在、ベルリンのバウハウス資料館でファーグス工場を主題にした写真展「モダンへの視線」が開催されています。展示の中心をなしているのは、新即物主義の代表的な写真家、アルベルト・レンガー=パッチュが1928年と52年に撮影したファーグス工場のモノクロ写真です。
初めて見たファーグス工場の外観に、私はすぐに魅了されました。まず目を引くのは、建物のほぼ一面を覆うガラスと鉄骨の構造です。それまでの常識ならば、柱が置かれるべき角の部分にも、大きなガラスがはめ込まれ、当時主流だったレンガ造りの建物にはない軽さと透明性を生み出すことに成功しています。この建物が、「モダン建築のスタート地点」と言われる所以です。
ファーグス工場正面(Wikipediaより拝借)
Fagusとは、ラテン語で「ブナの木」を意味する言葉。当時ブナの木は靴型の材料として重宝されたことから、その名が付けられました。ファーグスの創設者カール・ベンシャイトは福祉政策や労働者の扶助にも先見の明を持っていた人物で、彼が当時弱冠27歳のグロピウスに新しい工場の設計を依頼したことに、何か運命的な結び付きを感じます。
工場だけでなく、人物、靴型、周辺の風景などの写真も展示されており、撮影者の冷静な視線の中にも、単なる記録写真を越えた美を感じました。
ファーグス工場では、現在も4世代にわたって靴型が作られ続けており、展覧会で上映中のドキュメンタリー映像が今の様子を伝えてくれます。ある靴職人がインタビューの中で、「常に光が入るように設計されたこの工房の中で作業をしていると、自分が労働者というよりは、芸術家だと感じることができる」と話していたのが印象的でした。
カラフルなバウハウス資料館の入り口。毎週火曜日は閉館
バウハウス資料館では最近、日本語のオーディオガイドが貸し出されるようになり、日本人にも鑑賞しやすくなりました。内容豊富な常設展も含めて、この夏お勧めの展覧会です(8月29日まで開催)。www.bauhaus.de
ドイツニュースダイジェスト 8月5日)



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