あれから早1週間が経ってしまいましたが、私にとってはやはり大きなイベントだった、フィルハーモニー室内楽ホールでの本番のことを書いておきたいと思います。2月15日のコンサートは、昨年よりもお客さんがたくさん来てくださり、(舞台後方の席はともかく)舞台から見た前方と左右両側は、かなり埋まっていました。
さて、そんな感じで本番が始まったのですが、並笛(一般のフルート)で臨んだ冒頭のリストの《死の舞踏》。どうも唇が楽器の歌口にベストポジションに当たっていない感じが続き、個人的にはやや不本意な出来となってしまいました。その前の教会と違って、ご存知のようにフィルハーモニーは、舞台の全方向が客席に囲まれているので、客席を意識し出してしまうと、どんどんナーバスになってきてしまう・・・。続く新作ではアルトフルートのソロが1箇所あるのですが、今まで1回のブレスで吹けていたのに、変なところで余分に息継ぎをしてしまいこちらも反省。「音楽にとって絶対的に大事なのは呼吸」と先日聞いた対談で鈴木雅明さんもおっしゃっていましたが、体が硬直してしまうと、呼吸も自然にできなくなってしまうのですね。
そんな感じで個人的には少し残念な結果だったのですが、ハンス・アイスラー音大で学んだスイス人ピアニストBeatrice Berrutさんの演奏は素晴らしかったし、オケのメンバーであり、映画音楽の分野ですでに活躍しているHector Marroquinさんのソプラノとオーケストラのための新作も、上々の評判でした。
後半のショスタコーヴィチの交響曲第12番。こんな曲を自分で演奏することなど最後だろうという思いで吹きました。この交響曲は第1楽章が規模・技術からいって一番難しい。ピッコロはいままでいろいろな曲を吹いてきましたが、これほど激しく細かく動き回る上、High CやHが多く出てくる曲は初めてです。1917年のロシア革命を描いているだけあって、「壮絶」「絶叫」という表現を使いたくなる箇所が多い一方で、突如不気味なまでの静寂が訪れる瞬間があり、2楽章の「ラズリーフ」など、人の気配が皆無の極北の場所に連れて行かれたような趣さえあります。このコントラスがショスタコーヴィチを味わう醍醐味のひとつなのかもしません。変拍子のリズムが特徴的な3楽章の「アヴローラ」の後半、ついに10月革命の火ぶたが切られ、われわれも白熱したまま「人類の夜明け」と題されたフィナーレへとなだれ込んでいきました。
アマチュアゆえの稚拙な部分はありましたが、オーケストラも指揮者のAntoine(最近ハンス・アイスラー音大の指揮科を卒業したばかり)も、そして私も(笑)、持てる力を出し切れたのではないかと思います。たくさんの拍手をいただいた上、友人・知人も結構来てくれて、まあとにかく格別な夜でした。
演奏会後の打ち上げもあって、まだ興奮覚めやらない翌日、今度はコンツェルトハウスへ。ちょうどコンツェルトハウスで開催中の「ロシア・フェスティバル」の一環で、ショスタコーヴィチの交響曲第13番が取り上げられたのです。第12番と第13番は、ショスタコーヴィチの交響曲の中で唯一作品番号が連続している2曲で、どちらも演奏される機会が極めて稀。それを2日続けて聴けるのも何かの縁かと思い、足を運んだのでした。
キタエンコ指揮のオーケストラの演奏が始まってすぐに、渋く濃い色合いのオーケストラの響きに魅せられました。暗みがかった世界がすっと体に入ってくる感じ。さすが東のオーケストラというべきか、ベルリン・フィルが演奏してもおそらくこういう音にはならないでしょう。プラハ・フィルの男性合唱団がまた、この感情の振幅の激しい音楽を見事に歌い上げていました。ウクライナのバビ・ヤールのユダヤ人虐殺や反ユダヤ主義を描いた重苦しい第1楽章、第2楽章「ユーモア」の圧倒的な迫力。スターリン時代の恐怖政治を描いた第4楽章で、暗闇の中をもがいているような感覚を味わっているうち、ふっと光が差し込んできたようなフルートの2重奏から、最終楽章へと入ります。自分が中に入って体験した第12番の壮絶な世界から、1つの連作という形でここまでたどり着いたような気がしました。ショスタコーヴィチの作品に対してさらに愛着が深まり、機会があれば自分でもまた演奏したいと強く思った、今回の音楽体験でした。
KONZERTHAUSORCHESTER BERLIN
PRAGER PHILHARMONISCHER CHOR (Männer)
DMITRIJ KITAJENKO
ARUTJUN KOTCHINIAN Bass
Nikolai Rimski-Korsakow
“Die Sage von der unsichtbaren Stadt Kitesch” – Suite aus der Oper
Modest Mussorgsky
“Lieder und Tänze des Todes”, für Bass und Orchester bearbeitet von Edison Denissow
Dmitri Schostakowitsch
Sinfonie Nr. 13 b-Moll op. 113 für Bass, Männerchor und Orchester (nach Gedichten von Jewgeni Jewtuschenko)
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中村さんの興奮が伝わってきます。一枚目の写真、まず目にすることのできないアングルで新鮮ですが、これは緊張しますね…。でも素晴らしい経験ですね!
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大作さん
ありがとうございます。このホールの場合、舞台から客席までの距離が非常に近く感じられるのですよね。今回はちょっと緊張してしまいましたが、聴衆と共にいい音楽を作っていくというフィルハーモニーの基本理念を舞台上からよく実感できました。