毎年8月に入ると、私の気持ちは自然と日本へと向かう。それはドイツでもどこにいても毎年変わらない。6日は広島の原爆投下、9日は長崎の原爆投下の日、11日は自分の誕生日、12日は1985年の日航機墜落事故の日、15日は日本の無条件降伏の日……。とりわけ意識せずとも、第2次世界大戦と原爆投下以降、日本という国が歩んできた道と、私自身が経てきた道とが重なり合い、その両方に思いを馳せる日々となるからだ。
ちょうど1年前の夏に一時帰国していた最中、短い日程ながら広島と岡山を旅する機会があった。これがなかなか印象深い旅だったので、これから数回に分けてブログに記録しておこうと思う。1年前の旅をいまさら振り返ってどうするのかとも思うし、ただの個人旅行ではあるのだが、よかったらお付き合いいただけると幸いです。
2014年8月11日、新横浜発7時59分の「のぞみ101号」で広島へ向かう。お昼に広島に付くと、ホテルに荷物を預け、駅前のお店で広島風のお好み焼きを食べてから、14時頃の山陽線の電車に乗って宮島口へ向かった。
宮島口からJRの連絡船に乗って、初めての宮島へ。海風が心地よい。実はこの旅行で宮島に来ることになったのは、この日夜の花火大会を見るのがそもそもの目的だった。ここの水中花火は有名らしく、久々に8月を日本で過ごす私に、母が旅行を企画してくれたのだった。ところが、直前になって台風の影響で中止が決まり、少々残念な思いで宮島に向かうことになる(この約1週間後に土砂災害が広島を襲うとは、よもや思わなかった)。
日本三景のうち、宮島だけにはまだ来たことがなかった。近年は外国人観光客にもとりわけ人気が高いらしく、この日も大変賑わっていた。とはいえ、花火大会が予定通り開催されていたら、こんなものではなかったのかもしれない。いたるところで、この島のシンボルである鹿と出会う。
まずはやはり厳島神社の大鳥居へ。干潮時なので、歩いて大鳥居まで行くことができる。現在の鳥居は平安時代から数えて8代目にあたり、1875年に再建されたものだという。
厳島神社のすぐ近くにある「水羽」という古い邸宅のような造りの茶屋へ入る。ここで食べた抹茶のかき氷は、実に美味かった。練乳に加えて、好物の白玉まで添えてあって、私的にはもうパーフェクト^^
そして、厳島神社の境内を歩く。海を背景にした素晴らしい能舞台まであった。
できればロープウェーに乗って弥山まで行ってみたかったが、時間の関係で今回は諦める。代わりに、もう一つ眺めが良いとされている多宝塔の方まで上ってみることにした。
ここからの大鳥居の眺めに胸がすく思いがする。いつの間にか、花火大会のことはすっかり忘れていた。
少しずつ潮が満ち始める大鳥居を見てから、今度は賑やかな表参道商店街を歩く。紅葉まんじゅうをお土産に買い、その場でもいただく。当たり前のことながら、日本の観光地では大体どこでもお手洗いを借りられるのがありがたい。お店によってはお茶のサービスまであったりと、至れり尽くせりだ。
表参道の1つ裏手の町家通りに来ると、ぱったりと人が途絶える。普段ドイツに住んでいると、こういう何ということはない地方の路地の風景に心がざわつくときがある。
閑散としているけれども、生活のにおいはある。観光資源に恵まれた厳島という場所ゆえなのか、人口の流出が進む日本の地方都市を歩くときによく感じるわびしさはなかった。
宮島というと、これまでは恥ずかしながら、大鳥居のイメージしか持っていなかったのだが、島を半日歩いただけで、すっかり気に入ってしまった。機会があれば夏の花火も見てみたいとは思うけれど、もう少し涼しい季節にできたら泊りがけで再訪したいなと思う。
帰り際、宮島口の駅前で名物のあなごめしを食べる。シンプルな料理ながら、新鮮な穴子とタレの織りなす香ばしさに食が進む。その数日前に山梨で食べた近年稀少のうなぎと並んで、このときの日本滞在の忘れられない味の一つとなっている。
(つづく)