ベルリナーレ後半&Offside

メイン会場の Berlinale Palast にて(2月14日)。

今年のベルリナーレもこの日曜日で幕を閉じました。後半になるにつれて熱気は増していき、ほとんどの上映はソールドアウトに。私の今回のお目当てのひとつだった”Dear Pyongyang”もそんなわけで見逃してしまい、最終日は友達から評判を聞いていたデンマーク映画の”En Soap”を観に行こうかと思っていたのですが、土曜日の夜、その映画が銀熊賞を受賞したとのニュースが入り、チケットはまず入らないだろうと思って諦めました。結局観たのはわずかな数だけですが、簡単に書きとめようと思います。

まず、舩橋淳監督、オダギリジョー主演の”Big River”ですが、悪くなかったです。舞台はアリゾナ。オダギリジョー演じる日本人バックパッカーが、失踪した妻を探しに来ているパキスタン人の男アリに出会います。車が故障して動けなくなっている2人を助けた、現地に住んでいるアメリカ人の若い女性サラと3人で、アリの妻を探しに行くというロードムービー。

なんといってもアリゾナの大自然が舞台なので、圧倒的な自然美が見事。文化背景の異なる3人がちょっとした行き違いから仲違いしかけながらも、徐々に心の距離を近づけていきます。言葉の不自由な海外を1人で旅行していると、多かれ少なかれ似たような場面に出会うことがあるので、ところどころで共感できました。実は初めて観たオダギリジョーですが、英語での台詞も堂に入っていたし、なかなかいい味出していました。

その翌日観た、子供映画部門の”Winky’s Horse”というオランダ映画は心温まる作品でしたが、詳細は省きます。ところで、後日談になりますが、その数日前に観た同じ部門の「KAMATAKI(窯焚)」が特別賞に選ばれましたね。うれしいニュースでした。主役の藤竜也によると、低予算で作った映画で、藤さん自身趣味で陶芸をやる方だったとのこと。窯を焼くシーンは、そういう下地があってのことだったのかと納得しました。

今回コンペ部門では唯一”Offside”というイラン映画を観ました。なぜこの映画を選んだかというと、テーマに興味があっただけでなく、今回のベルリナーレのコンペ部門でほぼ唯一といっていいほどチケットが売れ残っていたから。こういう場合、Berlinale Palastでの上映では、前回お話したようにLast Minute Ticketsが出るので、それを狙ったわけです。

この映画館は座席指定になっているのですが、さて中に入ってみると、審査員席のすぐ後ろの列ではありませんか。上映が近づくと、映画祭ディレクターのコスリック始め、審査員の皆さんも目の前にずらり。ベストポジションでの鑑賞となったのでした(しかもワールドプレミエ!)。

タイトルの”Offside”から想像される方もいるかもしれませんが、この映画、実はサッカーの話です。舞台はテヘランのアザディスタジアム、昨年の6月、イランがドイツ行きを決めたW杯アジア最終予選の対バーレーン戦でのことです。今回のアジア予選で、日本とイランが同じ組に入ったことでご存知の方もいらっしゃると思いますが、イランではイラン革命以来(?)女性がスタジアムに入ることが禁じられています。しかし、ここへ、サッカーが大好きで祖国のW杯出場決定の瞬間を何とか見ようと、果敢にスタジアムに乗り込んでくる10代の少女たちがいました。黒のチャドルを身にまとっていたらすぐにバレるので、彼女たちはジーンズをはき、野球帽をかぶり、つまり男の子になりきってスタジアムに入ろうとするのです。しかし結局それぞれ捕まり、スタジアムのゲート横に柵で囲まれてしまいます。それでも彼女たちは、周りの警備の男たちに必死に噛み付き、何とか試合を観ようと試みるが・・

これはおもしろかったです。イランではタブーともいえるテーマに、イラン人であるJafar Panahi監督が真っ向から取り組み、こうして国際舞台でアピールできるということに、「映画の力」みたいなものを感じました。ヨーロッパとイラン(あるいはイスラム諸国)との緊張感が高まっている今だからということもあり、お客さんの反応はすこぶるよく、最後は熱狂的ともいえる喝采でした。少女たちの涙ぐましい努力にはホロりとさせられるし、またいろいろ考えさせられます。サッカー好きにはなおさら楽しめます。そうこうしているうちに、翌日この”Offside”が何と銀熊賞を受賞したではありませんか!これはまさに予想外の受賞といえるでしょう。おそらくドイツでの一般公開は時間の問題だと思います。日本での上映は、さてどうなるでしょう(ちなみにこの映画では、昨年3月のイラン対日本戦も一部絡んできます)。

今回のベルリナーレで金熊賞に輝いたのは、Jasmila Tbanic 監督の”Grbavica”というセルビア映画でした。「ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下のセルビア人兵士によるボスニア女性への組織的な強姦を背景に母と娘の葛藤を描いた(ロイター)」という過酷なテーマを描いたドキュメンタリーだそうで、まさに今年のベルリナーレのテーマを象徴するものといえるのかもしれません。



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