現在日本公演中のため主が不在の州立歌劇場で、テレマン(1681-1767)の「忍耐強い(寛容な)ソクラテス」という珍しいオペラが上演されました。演出はNigel Lowery、指揮はルネ・ヤーコプス、インスブルックの古楽音楽祭との共同制作です。評判の舞台だったので前から気になっていたのですが、なんとか最終日の公演を観ることができました。
「ドイツ音楽紀行」のフンメルさんが8月のインスブルックでの公演の模様をリポートされており、ストーリーも含めそちらを参照していただけたらと思うのですが、このオペラ、硬そうなタイトルとは裏腹に内容はドタバタの恋愛コメディーです。恋の哀しさを切々と歌い上げるといった湿っぽさとはとかく無縁で、シンメトリーに配置された舞台上では動きが絶えず、弾けるような音楽が全編を支配しています。
指揮者のルネ・ヤーコプスが先月末のベルリナー・ツァイトゥング紙のインタビューでこのオペラについて語っています。それによると、「ソクラテス」というオペラに惹かれたのは、「アンサンブル(重唱)、特に2重唱」だったとか。「ただし、全てが争い事の2重唱で、非常に対位法的に導かれる。これはとても珍しいことだ。1曲だけ愛のデュエットがあるが、(今回の上演では)カットした」とのこと。
ヤーコプスはこの後も、「ヘンデルのオペラは近年再び脚光を浴びたが、一方でテレマンやラインハルト・カイザー、アレッサンドロ・スカルラッティはその影に隠れてしまった。これらの音楽で聴衆を熱狂させるのが私の課題だ」「『ソクラテス』の音楽は全編驚きにあふれ、意外なコントラストがある。ここでは、聴き手は常にアクティブに集中していなければならない」「バッハはモダンオケでもそれなりにいい演奏ができるが、テレマンでは不可能」など、興味深い話を続けるのですがここではこのくらいにしましょう。
それにしても、私もこの作品を通して、テレマンの音楽のすばらしさに改めて目を(耳を)見開かせられました。4時間弱という決して短くないオペラを(内容さえろくに把握していなかったのに)、最後まで全く飽きることなく観ることができたというのは自分自身驚きでした。どうやら完全にヤーコプスの策にはまってしまったようです。
演出のNegel Loweryと振り付けのAmir Hosseinpourは、よく一緒に共同作業をしているのだそうで、本とおもちゃでアテネの街並みを形作った幕絵がこの舞台の雰囲気を集約しています。とにかくポップで軽妙、おもちゃ箱をひっくり返したような、そんな楽しさなのです。手の動きも豊富なあの振り付けは、子供のお遊戯会とかにも応用できそう(?)。ヤーコプスが先ほどのインタビューで語っている、「対位法的」「意外なコントラスト」「驚き」といった言葉が、この舞台を観た後では実感として理解できた気がしました。ソクラテスの妻のひとりXantippeの後半のアリアでは、本物の犬2匹(かわいい!)まで舞台に登場し(字幕のテキストでは「羊」とありましたが・・・)、Inga Kalnaの歌のすばらしさもあってこの日一番の喝采を浴びていました。
ベルリン古楽アカデミーの演奏もお見事。中でも2本の横笛(トラベルソ)とソプラノ・アルトの2本のリコーダーを吹き分けたChristoph Huntgeburth氏の名人芸には本当に感激しました。ほかにも雅やかなオーボエの重奏とか2本のリュート、小気味よいティンパニやバロックトランペットなど、賞賛するばかりなのも何なのですが、本当にどれもが素敵で、かつ熱のこもった公演だったので。
Musikalische Leitung: René Jacobs
Inszenierung: Nigel Lowery/Amir Hosseinpour
Bühnenbild und Kostüme: Nigel Lowery
Choreographie: Amir Hosseinpour
Licht: Sven Hogrefe
Dramaturgie: Francis Hüsers
Sokrates: Marcos Fink
Rodisette | Cupido: Sunhae Im
Edronica: Birgitte Christensen
Xantippe: Inga Kalna
Amitta: Kristina Hansson
Melito: Donát Havár
Antippo: Matthias Rexroth
Nicia: Maarten Koningsberger
Aristophanes: Alexey Kudrya
Pitho: Daniel Jenz
Alcibiades: Sun-Hwan Ahn
Xenophon: Richard Klein
Akademie für Alte Musik Berlin
Innsbruck Festival Chorus
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見出しを見て、ヘンデルとの比較を言及しようと思っていたのですが、音楽監督ご本人が語っているようで蛇足でしょう。ヘンデルは現代楽器での上演歴が多く、古楽もしくは古楽奏法へと移行したのに対して、テレマンは近代オペラ劇場での上演歴は限られているのでしょう。そしてこれが、ヘンデルに劣らずに主要レパートリーとはなかなかなり難い近代オペラ劇場の伝統と機構から抜け出せるのかどうか。ドイツ語圏を抜けると幾らでも上演するものはあって困らないのでしょうが、ドイツの特に北ドイツを中心にこうしたレパートリーを復活させたいところですね。
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オペラ自体とは関係ないんですが、
このオペラのドイツ語タイトルの"Der Geduldige Sokrates"の
"geduldig"。
「忍耐強い」⇒「根気の良い」⇒「気長な」⇒「寛容な」
とバリエーションのある意味を持つ単語のようですが、
全部を一緒くたに訳すのは難しそうですよね。
どうしてもどれかのニュアンスがなくなっちゃう。
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マサトさんも見られたんですね。活きのいい若手歌手が活躍で、楽しいオペラでしたね。ベルリンでは毎年ヤーコブスのバロックオペラが観れるのが羨ましいです。今後も、テレマンやカイザーの復活上演に期待したいですね。
リンクありがとうございました。
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シュターツカペレのライナー先生のレッスンを受けました♪
日本公演は聴けなくて残念だったのですが。。。。
事故も、いろいろあったようです(笑
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paukenschlagzeugです。(いつも最後のgが長過ぎて入りません)私の居たMagdeburgはテレマン生誕の地だそうです。もっと長く居たかったなぁ、と思っていたら、なんと(!)当時の教授先生からメールで「carry out a cooperative study. We invite you to join this cooperation.」だそうです!Cc:で打ってるアドレスには日本人は私だけ。アンタは日本でやってオレたちのデータと合わせて投稿しよう、ならばダメですが、「また一緒にドイツでやらせてもらってもいいかな?」と返事を打ちました。人種間の差についても調べるような仕事なので、脈アリかも。期待大です。古楽のタイコはまた違った魅力ありですね。今度行けたらオケももっと楽しみたいなぁ。知り合いのラッパ吹きにもリコーダーにハマってるのがいます。
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>pfaelzerweinさん
コメントありがとうございます。
このヤーコプスのインタビューは以下で全文をご覧いただけるので、よかったらどうぞ。
http://www.berlinonline.de/berliner-zeitung/archiv/.bin/
dump.fcgi/2007/0927/feuilleton/0004/index.html
テレマンのオペラというと、ほかに「ピンピノーネ」の名前を知っているぐらいですが、こういう舞台でならもっと見たいと心から思いました。ヘンデルにつづく、テレマン・ルネッサンスを期待したいところです。
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>Kenさん
>「忍耐強い」⇒「根気の良い」⇒「気長な」⇒「寛容な」
なるほど!
geduldigが「寛容な」と訳されるのにはちょっと違和感を感じたので、ここでは「忍耐強い」としましたが、2つの日本語訳の間にはかなりのニュアンスの相違がありますよね。果たしてどちらがふさわしいのか・・・
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>フンメルさん
久々のコメントありがとうございます。
来年1月のバロック・ターゲはヘンデルの「ペルシャザール」だそうです。ここのところモンテヴェルディが続いていましたよね。ちなみにその後は、ムスバッハ、サシャ・ヴァルツと組んでパーセルの「妖精の女王」を上演する可能性が大だそう。
せっかくなのでTBさせていただきますね。
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>らっぱ@たかさん
レッスンの様子はミクシィで拝見しました!
>事故も、いろいろあったようです(笑
そうでしたか。でも相対的に見たら、来日公演は大成功だったようですね!
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>paukenさん
お久しぶりです!テレマンといえば、マグデブルク。ベルリンから近いのに、私はまだ行ったことがないのです。当地開催のテレマン・フェスティバルというのが気にはなりますが。
ご専門の方で、すばらしい機会がめぐってきそうなのですね。うまくいくことを願っています。