ボルンホルマー通り脇の道 (07.4.13)
プレンツラウアーベルクとヴェディングのちょうど境目に住む友達に会いに行くとき、私はいつもSバーンのボルンホルマー通り(Bornholmer Straße)の駅で降りる。駅のすぐ上に橋が架かっており、そこから東側に歩いて行くと、車の通りとアパート群の間にあるこのような空き地にぶつかる。数年前初めてここを通ったとき、「駐車場にしてはだだっ広いところだな。人通りが少ないし、夜にはあまり歩きたくない場所だ」ぐらいの感想しか持たなかった。実はここがかつての検問所跡で、1989年11月9日の夜、押し寄せる東独市民の波に抗えず国境の門が開かれた最初の場所だということを知ったのは、それからしばらく後のことだった。
1988年の同検問所(stadtentwicklung.berlin.de より)
先日ご紹介した今週号のシュピーゲル誌の付録DVDを見ていたら、その日のボルンホルマー通りの検問所の様子を約10分間に渡って伝えるシーンがあり、全体を通して自分にとってはやはりもっとも印象に残った。
ありがたいことにそのシーンがYouTubeで見られるので(しかも英語の字幕付き)、11月9日の今日、この貴重な映像で18年前のあの日のベルリンに身を置いてみよう(カッコ内はそのビデオでの時間です)。
時計は8時35分の針をさしている(0:12)。その少し前、東西ベルリンはもとより、全世界にテレビで伝えられたという、「東ドイツ市民の外国旅行の自由化」についての記者会見を見た人々が半信半疑ながら続々と周囲に集まってくる。その情報をまだ知らされていない国境警備隊員は、いますぐに国境を越えることは不可能だからすぐに立ち去るよう拡声器で呼びかける(0:21)。「話が違うじゃないか。オレたちはちょっと向こうの様子をのぞいてみたいだけなんだ」とすごいベルリン訛りで怒り出す男たち (1:02)。だが、先ほどの会見の内容を言葉通りに信じて車でやって来る人々の波は次第にふくらみ、検問所の狭い歩行者用の通路も人であふれかえることになる。ようやく検問所の小さな扉が開かれたが、身動きが取れないほどの混雑ぶり。警備隊員(あるいはパスポート審査官?)は上司の指示を仰ごうとするが、電話はパンク状態で、どう対処したらいいかもはやわからない(3:09)。
さて、面白いのはここからだ。まず、(3:53)からのカメラアングルで、この検問所の大まかな様子がわかる。ついに車道にまで人々が押し寄せ、警備隊員に詰め寄るシーンが見もの(4:08)。だが、ベルリーナーの本領発揮と言うべきか、不思議とそこには殺気立ったものが感じられない。半分笑顔で「オレたちはすぐに戻るよ。30分だけでいいんだ」と必死に懇願する彼らの表情を見ていて、私は東出身の友達から以前聞いた話を思い出した。「あの夜、人々がどうして壁の前に殺到したかわかるかい?壁はまた再び閉じられてしまうのではないかと、みんな心のどこかで思っていたんだよ。だから、あの向こう側がどうなっているのか、とにかく一度でもいいからのぞいてみたかったんだ」
次第にいらだってくる人々の間からはついに、“Tor auf!(Open gate)“, „Wir komen wieder!(We’ll come back)“のシュプレヒコールが起こる。歴史を動かす彼らの迫力に押され、どうしていいか途方に暮れる警備隊員の表情が実に印象的だ。やがて11時半ごろ(と言われているが)、ついに国境警備隊員は自らの判断で東西の門を開放する。歓喜が訪れる瞬間だ(6:12)!ここは何回見てもいい。その後についての説明は不要だろう。橋の上からリポートする日本人や(8:23)、偶然再会し抱き合う人々の姿も映される(8:44)。ベルリンの他の検問所も、この連鎖反応でやがて全てが開放されることになる。
1989年11月9日の同検問所(シュピーゲル誌より)
あの日から20年近くが経とうとしていますが、皆さんの体験談や思い出話などもよかったら聞かせてください!
参考:
私とベルリンとの出会い 1988-2006
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マサトさん、ほんとにありがとう。こんな素晴らしい歴史的なシーンが実況風景的に見られるだなんて。感動で涙が出ましたよ。
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貴重な記事に感謝です。特に、混乱時のベルリーナーの態度に驚きました。「W'll come back !」なんて素晴らしいシュプレヒコール!全ての瞬間に釘付けでした。あまりに感動し、早速私のblogでこちらの記事を紹介させて頂きました。よろしかったでしょうか? この歴史の事実をもっとみんなに見て欲しいです。
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当時、東ベルリンのフリードリヒスハインに住んでいた私のよく知るに言わせると、あの夜のあの時間は、少なくとも彼女の住んでいたあたりは普段と変わらぬ淋しく静かな夜だったそうです。深夜の窓外には人の声も車の通る音も聞こえぬ普段通りの静寂….そう回想していました。ごくごく一部を除いて東ベルリン全体は「あの瞬間」直後でも寒々としていて静かだった…これがあの深夜の現実の姿だったらしいことは、その後何人かの私の知人も語っていました。
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次の朝にニュースを聞き付けた彼女は、意を決して黒山(金山?)の人だかりの検問所から、生まれて初めて西ベルリンへ。心臓がドキドキしたそうです。ほんの数メートル歩いたところにあった小さな商店のウィンドーに目が吸い寄せられ、その場を長い時間離れられなかったとのこと。そしてなんとその場から検問所に引き返して東側に戻ったそうです。「そのまま西ベルリンの中心部まで行く勇気がありませんでした。怖かった。新しい世界との遭遇が劇的過ぎて、私の神経が正常を保てる自信がありませんでした…。」そう回想していました。
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そんなことで、私自身はあの時は「東京出張中」で残念なことにベルリンにはいませんでした。ベルリンに行けたのは年末で、その時は年越しの「カウントダウンもどき」で、ブランデンブルク門での大騒ぎに参加したわけです。花火が美しく、爆竹の音と共に今でもあの光景は忘れ難いですね。その時あたりまででしょう、壁崩壊を純粋な喜びとして東西ベルリンの市民が歓喜をもって受けとめることのできたのは。年が明けて状況が変わってきましたね。
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今にして思えば、本当に今にして思えば…実は「壁崩壊」から数か月後の総選挙までの間、これが重要であったわけで、私に一ヵ月間の過去のベルリンへのタイムトラベルが可能なら、壁のあった時代よりも崩壊後の数ヵ月間の時期を再体験してみたいと最近考えますね(個人的な出来事のほんの一部はすでに別な場所に書いてありますが)。なにか、ざわざわとしていて騒然としていた感じのあの数か月間、もう少し問題意識を持ってあの時代のベルリンを観ることができていたらと、最近になって後悔しています。私ばかり書くのもなんですので、このへんで。
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映像、見させていただきました。
18年前、私は中学生だったでしょうか。
残念ながら、壁が崩れたときにリアルでどう感じたかは覚えていないのです。。。
しかし、いまこの映像を見た時、歴史は本当に動いたのだと思い、涙がなぜか出て来てしまいました。
もし、あの場にいたら。。。と、思うとなんとも言えない気持ちになりますね。
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あの晩は、ラジオを消してたので全く知らず、翌朝、いつもより朝寝坊して、何も知らずに外へ出ると、何か様子がおかしい。何だかいつもと違う。明らかに西側ではない人々が大勢歩いてました。服装が違うのですぐ判るのです。でも、それが東(ドイツ)の人だとは納得できません。そんなことはあり得ない話だったからです。
地下鉄車中でも「壁」の話で持ち切りで、「壁が開いた」と耳にしましたが、半信半疑でした。自分が生きてる間に壁が無くなるなんて、本当に当時誰も考えてなかったと思います。
それで、自分の目で確かめようと、ポツダム広場へ直行したのです。何日か前に物見台から写真を撮ったばかりでしたので、同じ所に上がると、本当に壁の一部が壊されて道ができてました。あの衝撃と言ったら、なかったですね。夢中で写真を撮りましたよ。歴史的瞬間に立ち会えた興奮は全身鳥肌が立つみたいで、ひとりで「スゲー、スゲー」と言ってましたから。
私のブログの2006年2月21日 (火)に画像入りで書いてます。
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>grappa-teiさん
喜んでいただけてうれしいです。私も感激したので、その思いをここで共有できたらと思いました。
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>madonotabiさん
まさに歴史的な瞬間ですよね!今でもあの日を歓喜の象徴として見ることができるのは、1人の血も流れなかったことが大きいと思います。幾たびもの辛酸を味わっているベルリンの人たちは、物事をどこかで突き放して見る習性ができているのかもしれません。あのシーンでの人々の表情を見ていても、どこかで余裕が感じられますよね。
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>鮭さん
私ももちろん当時のベルリンは直接は知りませんが、この映像を見て、あと同じ場所に立ったことで、いくらかは追体験することができました。映像の力はやはりすごいです。
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>gramophonさん
貴重なお話をありがとうございます。ブログの記事も拝見しました(TBしようと試みたんですが、うまくいきませんでした)。
あの日の翌日、ポツダム広場におられたんですね!2枚とも見晴台から撮られたものでしょうか。あの前と後の様子がよくわかります。やはりいくらかはあの日を追体験できたような気持ちです。
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>la_vera_storiaさん
心に残るお話を聞かせていただき、感謝するばかりです。
>ごくごく一部を除いて東ベルリン全体は「あの瞬間」直後でも寒々と
>していて静かだった
ボルンホルマー通りの熱狂とは全く異なる現実が大部分だったのですね。「フリードリヒスハインの彼女」のエピソードは、ある意味で衝撃的でした。突然の壁の崩壊は、彼女にとって「未知の世界との遭遇」以上のものだったのでしょうか。
>年が明けて状況が変わってきましたね。
今回見たシュピーゲルのドキュメンタリーは89年の年末で終わっているのですが、ナレーションの最後の一言「壁は崩壊した。そして問題が発生した」が妙に後に残りました。壁崩壊から統一に至る時期についてはまだまだ知らないことだらけなので、これから理解を深めていきたいです。
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あ、うちの旦那も壁の崩壊後はココから西に行ったそうです。(当時15歳)
母親に「帰って来れなくなるかもしれないから、今じゃなくてしばし落ち着いてから行って。」と言われたそうですが、若者がそんな言葉に聞く耳を持つはずもなく・・・。
そんな訳で未だにココを通るときは私でもなんとなく、ですが、感慨深いものがあります~。
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>のりあきさん
へー、それはすごい!
旦那さんがあの群集の中にいらしたのかと思うと、何だかそれだけで感動です。機会があったらそのときのお話を伺ってみたいですね。
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Masatoさん、ありがとうございます。こんな感激的なシーンを見ることができるとは思っていませんでした。私はニュースを見てびっくりして、何とか次の夏DDRが存在するうちにベルリンに行くことができました。こんなことは生涯でないと思い子供たちもつれて行きました。
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>Kamanoさん
お久しぶりです!このシーンはやはり特別ですよね。
>こんなことは生涯でないと思い子供たちもつれて行きました。
それはすごい!DDR最後の夏をお子さんと一緒に体験されたのですか。
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マサトさん、こんにちは!
忙しさにかまけ、ベルリンの壁崩壊の日を忘れていました・・・。
遅ればせながら、You Tube拝見しました。
「Tor auf」。
・・・涙が出ました。
事実は小説より奇なり。
ベルリンのこんな歴史が本当にあったのですね!
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>しゅりさん
こんにちは!しゅりさんも涙が出ましたか。「事実は小説より奇なり」、本当にそうですよね。僕もあの映像を見てから、改めてボルンホルマー通りに行ってみたくなりました。
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マサトさま
こんにちは。先日は私のブログにいらしてくださり、ありがとうございました!
私のブログでは昔、一人の普通の主婦が体験したほんのささいな東ドイツ体験を思い出話のように時々綴っております。
ベルリンの壁崩壊18年目に時同じくしてその日の私の体験を記事にしてみました。
今後もベルリンの壁開放後のお話をいくつかご紹介する予定です。
どうぞ、遊びにいらしてくださると嬉しいです。
こちらでは貴重な動画を見せていただきました。
私も思わず涙が出ました。
今後ともベルリンの事、こちらで勉強させていただきますね。
どうぞよろしくおねがいします!
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>rinoさん
お越しいただき、どうもありがとうございます!
TBを再度試みてみたのですが、残念ながらどうもうまくいきません。よかったらrinoさんの方からも試してみていただけないでしょうか。あの体験談は多くの人に読んでいただきたいですから。
あのとき東ベルリンに住んでおられたなんて、本当に貴重な体験をされましたね。またちょくちょくお邪魔させていただきますので、こちらこそよろしくお願いします。
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こんにちは! 初の書き込みです。
遅ればせながら、きょうこちらのエントリ、読ませていただきました。このYou Tubeの映像、どこかで見たな〜と思ったら、今年1月に放映されたNHKドキュメンタリーでも使われていたものでした。You Tubeの映像で泣いた後、録画したドキュメンタリーのDVDを改めて見ましたが、やっぱり泣いてしまいました。
このドキュメンタリー、当時の関係者約20人に取材していて、たいへん興味深く、見応えがあります。おすすめです。
関心のある人にはぜひ見てもらいたいのに……と思って調べたところ、なんと明後日、5月5日に再放送されることが分かりました!
ご覧になれる環境の方は是非。前後編に分かれています。
NHKドキュメンタリー 証言でつづる現代史・こうしてベルリンの壁は崩壊した
前編「ライプチヒ市民たちの反乱」5日(月)22:10-23:00
後編「迷走する党・揺れる首都」5日(月)23:10-24:00
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>youさん
初の書き込み、どうもありがとうございます。
教えてくださったNHKのドキュメンタリー、今日放映ですか。これは必見ですね!93年に作られた番組だそうですが、残念ながら私は観た記憶がありません。
過去ログへのコメントも、よかったらまたお気軽にどうぞ!
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あ。93年制作のとは別の番組だと思います。番組中でも「壁崩壊から20年近くたって、関係者がようやく重い口を開いた」というような説明がありましたし。今年1月の放映が最初かと思われます。
改めて見て、やっぱり感動でした!
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NHKドキュメンタリーをとてもおもしろく見ました!情報ありがとうございました。29年前に旅をしたライプチヒ・ベルリン・ドレスデンを思い出し非常に感慨深く見ました。あの時にガイドをしてくださった流暢な日本語を話されるフンボルト大学の(当時学生)エダさんは今どうしておられるのか気になります。
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>youさん
>93年制作のとは別の番組だと思います。
なるほど。そういえば、知り合いのドイツ人から、ライプチヒまで行ってその番組のコーディネートをしたという話を聞いたのを思い出しました。新しい番組ならますます観てみたいですね!
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>Urlichtさん
29年前というと、私がまだ幼少の頃ですか。あの頃の東独を旅行するのは容易ではなかったと思いますが、DDRという国が消えたいまとなってはかけがいのない体験をされましたね。特に現地の人との触れ合いに恵まれた旅は、忘れがたいものとなります。