高校3年生の時、初めて聞いたヤナーチェクの音楽に再び出会ったのは、それから5年後のことだった。大学3年生だった1998年、当時所属していた早稲田大学のオーケストラが、秋期演奏会でヤナーチェクの「シンフォニエッタ」を取り上げることになったのである。このオケは、普段はベートーヴェンやブラームスなどの所謂「ドイツもの」を取り上げることが多かったので、チェコ音楽をやるにしても、「スメタナでもドヴォルザークでもなく、なぜよりによってヤナーチェク?」と私だけでなく他の団員も思ったに違いない。なにせ金管楽器のファンファーレ隊だけで10人ぐらい必要とする曲だ。アマチュアはもちろん、プロのオケでさえ取り上げることはめったにない。それを敢えてワセダの普通の学生が挑もうとしたのは、金管にメンバーが揃っていたのと、翌年ドイツへの演奏旅行を控えていて、その候補曲としての目論見があったからと思われる。
「シンフォニエッタ」はレコード芸術誌の「名曲300選」の類いには入っていたから、存在自体は知っていたけれど、聞く機会はそれまでなかった。自分は乗り番でないし(演奏は4年生中心だった)、当初はあまり興味が持てなかったのだが、練習を聞いているうちにじわじわと惹かれていった気がする。
まず金管のファンファーレがかっこいい。木管楽器のソロも多く、特殊楽器も大活躍する。楽譜を見ればわかるが、変拍子が出てくるなど音楽の構造は相当凝っているのに、聞こえてくるものは素朴で、みずみずしく、作り物めいた感じがまったくしない。同じヤナーチェクでも、後に出会うオペラや弦楽四重奏の世界と違って、ここではどこを取ってもある種「健全な」空気が流れている気がする。冒頭のメロディーを始め東洋的な響きには親しみを感じるし、日本の刑事ドラマの主題歌に使われそうなテーマがいきなり出てきたりして、真面目なのにどこかユーモラス。
「シンフォニエッタ」でもう1つ思い出すことがある。このオケでは夏合宿の最終日に、パートごとに宴会芸を披露するのが恒例となっているのだが(今でもそうなのかな?)、ファゴットパートがこの曲をネタに芸をやったのだった。先輩に1人卓越したコメディアンがいて、彼が振り付けなどを考えたらしい。内容はもうほとんど忘れてしまったが、これが抱腹絶倒で、今でもCDを聞いていてある楽節に差し掛かると、あの時を思い出してニヤリとしてしまう。
そんなこともあって、晩年のヤナーチェクが体育協会のために書いたこの音楽は、襟を正して聞くというよりも、愉快でどこか憎めない友達のような存在になっていた。それは、「シンフォニー」ではなく、「シンフォニエッタ」という響きにも表れている。そして翌年、今度は自分たちがこの曲を演奏する番になった。
(つづく)
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懐かしい。そういえば使ったね。
でも、ヤナーチェクに失礼だよね(笑)
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タンコニさん
いやあ、あの時の芸はホントに傑作でした。できることならもう一度見てみたいなあ。