映画『Nuclear Nation』 (船橋淳監督)

●今年のベルリナーレでは特に時事性の高いテーマとして、昨年の「アラブの春」、そして311関連のドキュメンタリー映画が3本上映される。先週土曜日、ベルリナーレで船橋淳監督の『Nuclear Nation』を観た。ツォー駅近くの会場のDelphiは超満員といえる入り。中に入ったら一番前か後ろしか空いていなくて、結局前から2列目の席で2時間半ずっと上を向いて観ることになった。
●原発のある福島の双葉町から都心に避難してきた人々(埼玉の旧高校が避難所)、そして井戸川町長の春から秋までを追ったドキュメンタリー映画。突然故郷を追われて、見ず知らずの場所で送る避難生活がどういうものなのか、いろいろな報道で聞き知ることはあったけれど、こういう長いスパンでとらえた映像を見るのは初めてだったので、自分にとっても貴重な機会だった。
●避難所でのインタビューに答えるのは年配者の割合が高い。後で監督が語ったところによると、若い人の多くが早い時期に避難所を去っていったこと、たまたま撮影許可が出た大部屋に子供連れがいなかったことが理由だとか。故郷への思い、諦めや嘆きの言葉を語る人が多い中、90歳のおばあさんが「私はここでは死ねないわ」と努めて明るく語るシーンでは、観客の間から一瞬ほっとした空気が流れた。
●井戸川町長に関しては、政府や原発を抱える他の市町村との会議の場面が多く描かれる。出稼ぎ労働者ばかりだったこの町が、かつて原発を熱心に誘致したこと。そこで得た利益で一時は潤っていたが、やがて借金が膨らみ、(再び補助金が得られる)7号機、8号機の建設が間近に迫っていたこと。地方と東京との歪んだ関係性をいまさらながら思い知らされる。原発を抱える市町村の長による会議の場面では、海江田経産大臣と補佐官が冒頭で挨拶したものの、別の用があるからといってさっさと退散してしまう。そのとき場内からはため息がもれた。
●一時帰宅の場面も生々しく描かれた。長年住んだ故郷に、ものものしい防御服を来て、わずか2時間ばかりの帰宅を許された人々の気持ちはいかばかりのものか・・・本当に言葉にならない。
●日本在住の人にとってはすでに知っていることばかりかもしれないけれど、私はこの映画で初めて知ったことも多かった。何よりドイツの一般の人々に観てもらえたのはよかったと思う。彼らの多くにとって、ドイツのメディアの報道以外で、フクシマの事故や周辺の人々の実情を知るおそらく初めての機会だったのではと思うから。
●アメリカで学んだ船橋監督は流暢な英語を話すので、上映後のQ&Aも英語で。地元の人からは「放射能の高い地域で撮影する際はどのように身を守ったのか?」「エンディングロールで協力に東電の名前が入っていたが、あなた自身は東電に対してどういうスタンスなのか」なんていう質問もあった。その合間に、双葉町の井戸川町長のビデオメッセージが流された。ドイツ語の挨拶も交え、「もうこういうことは二度と起きてはならない。そのためにドイツの人たちとも連帯したい」と語られると、聴衆からは温かい反応も。エンディングの音楽は坂本龍一。鈴木治行によるフルートとピアノの音楽も東北の空気感を伝えるものだったと思う。明日(16日)13時15分からポツダム広場のCinestarにて最後の上映があるそうです。



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