ヤノフスキ&ベルリン放送響のベートーヴェン・チクルス


●昨シーズンの後半に聴いたコンサートの中で、とりわけ強烈な印象が刻まれたのが、マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送響によるベートーヴェンの交響曲チクルス。5月に5公演が集中して行われ、そのうちの3公演を聴きましたが、ベートーヴェンの音楽に浸れる喜びを心から味わわせてくれるものでした。もう大分時間が経ってしまいましたが、新しいシーズンが始まる前に振り返っておこうと思います。
●プログラムのラインナップを見ても、彼らの強いこだわりが感じられる。まず、演奏頻度が高い第9は敢えて外し(ドイツでは年末に第9を演奏する習慣はないが、このコンビは毎年大晦日に演奏している)、その代わりにというべきか、「ミサ・ソレムニス」を。交響曲のカップリングも、第1番から順番に並べて演奏するのではなく、ヤノフスキの言を借りると「古典的な第1番と革命的なエロイカで一組に。まだ古典的だけれども、より攻撃的なところも併せ持つ第2番は、舞踏的な衝動を備えた第7と。しばしば過小評価されるが、『古典的』という意味では完璧に磨き上げられている第4番は、第5番とのカップリングがふさわしい。リリックな〈田園〉は、ハイドン風という意味で第8と『結婚』」という具合に、明確な意図が感じられるものだった。
●とはいえ、コンセプトが先歩きすることなく、肝心の演奏がまた素晴らしい。ラトル&ベルリン・フィルやバレンボイム&シュッターツカペレに比べると、職人気質のヤノフスキの存在は確かにやや地味ではあるが、その充実ぶりは勝るとも劣らず、RSBとの関係はいままさに円熟期にあるのではないだろうか。〈英雄〉、〈運命〉、第7番は、すべてコントラバスが8本の16型で、しかも倍管という近年ではほとんど見られなくなった大編成。これだけでもすごい迫力だったが、彼の棒にオーケストラは鋭敏に反応し(その姿は献身的でさえあった)、大きな音楽的なうねりと奥行き感が生まれる。〈運命〉の第1楽章は、フェルマータまで取っ払ってしまわれたかのような音楽の推進力が圧倒的。2楽章では、一転して巧みなバランス感覚を見せて、音楽の構造が鮮やかに浮かび上がってくる。ベートーヴェンの音楽に不可欠な構築感があり、かつそこから絶えずはみ出そうとするパトス、即興性とのせめぎ合いが、実にスリリングだった。久々にドイツらしいオーケストラでベートーヴェンを聴いたなという感じ。
●このチクルスでもうひとつユニークだったのが、弦楽四重奏というベートーヴェンのもうひとつ重要なジャンルと組み合わせたことだろう。それぞれの交響曲とゆかりの深い作品が選ばれ、ハーゲン、アルテミスといった名門の他、Apollon-Musagète-Quartett、Belcea-Quartettといった若手の団体がゲストに呼ばれた。最後の日を例に取ると、ベト2の後で休憩、ベト7の後でさらに休憩が入り舞台が片付けられ、カルテットが登場という流れ。フィルハーモニーでフル編成のオケを聴いた後に、同じ場所で最小編成のカルテットを聴くというのも初めてだった。でも、これがまたよかった。ベト7のフィナーレで聴衆が熱狂して、お祭りのような雰囲気になった後、少し間を置いてから、ハーゲンカルテットが登場し、《弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調》作品131のあの祈りに似た深いフーガを奏で始める。ホールの空気がまたがらっと変わる。そしてまた、ベト7とは違うベートーヴェンの晩年の心象風景のようなものが、目の前に立ち上がってくる。その時すでに2時間を優に超えていたが、誰もが引き込まれて聴き入っていた。最高のチクルスだった。
So 09.05.2010 | 20:00 Uhr
Philharmonie Berlin, Großer Saal
MAREK JANOWSKI
Apollon-Musagète-Quartett | Streichquartett
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
Beethoven-Zyklus III
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 4 B-Dur op. 60
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 5 c-Moll op. 67
Ludwig van Beethoven
Streichquartett c-Moll op. 18 Nr. 4
So 23.05.2010 | 20:00 Uhr
Philharmonie Berlin, Großer Saal
MAREK JANOWSKI
Artemis-Quartett | Streichquartett
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
Beethoven-Zyklus V
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 1 C-Dur op. 21
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 3 Es-Dur op. 55 (“Sinfonia eroica”)
Ludwig van Beethoven
Streichquartett f-Moll op. 95
Mo 24.05.2010 | 11:00 Uhr
Philharmonie Berlin, Großer Saal
MAREK JANOWSKI
Hagen-Quartett | Streichquartett
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
Beethoven-Zyklus VI
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 2 D-Dur op. 36
Ludwig van Beethoven
Sinfonie Nr. 7 A-Dur op. 92
Ludwig van Beethoven
Streichquartett cis-Moll op. 131



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2 Responses

  1. うのっち
    うのっち at · Reply

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    いいなぁ、なんともぜいたくなプログラムですね。ヤノフスキはまだラジオでしか聞いたことがありませんが「こりゃ生で聞いた方が絶対よいのだろうな」と思いました。RSOは、H.シュタイン晩年の録音を持っているのですが、彼らのような巨匠の要求に的確にこたえて良い仕事をするという印象です。

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    うのっちさん
    RSOは東独時代の録音にも名高いものがいくつもありますよね。シュタインとの録音もきっといいのでしょうけど、近年このオケはさらに充実しているように思います。ベートーヴェン好きとしては、今度はウィーンのあの場所のことをぜひ書いてみたくなりました。またお立ち寄りください。

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