「ベルリン・インタビュー」を始めるにあたって

Reichsstraßeにて(10月17日)
このブログではこれまでベルリンの様々なテーマについて書いてきたけれど、事物の紹介だけではなく、この町に住む多種多様な人々に話を聞いてみたいと思う気持ちが強くなってきた。前回お話した「歴史と個人」の話にも通じるが、ベルリンに暮らす人々のバラエティーさというのは他の大都市の枠組みの中でも捉え切れないものがある。様々なベルリンの人々がどういう経緯でこの町に住むようになり、どういう人生を歩んで来たのか、その歴史を追ってみたくなった。ヴィム・ヴェンダースは、「ベルリーナーはドイツの他の町の人々と全く違っていて、独特のユーモアがある」なんて語っているが、いろいろな人に話を聞くうちに彼らの特性とでもいうものが浮かび上がってくるのか、そんな期待感もある。インタビューを取って文章におこしてまとめるというのはそれなりに手間のかかる作業ではあるが、自分の今後の仕事にも生きてくる経験になると思うので、これから折に触れて続けていけたらと思う。
さて、有名無名問わず話を聞いてみたいベルリーナーはたくさんいる中、第1回目は私の最も身近なベルリーナーにお話を伺うことにした。Mechthild.Tさん。私の母親と同年代のご婦人である。いわゆる有名人ではないが、生粋のベルリンっ子で、私がベルリンにやって来た1年目から何かとお世話になっている方だ。その過程で、彼女の意外な側面も明らかになってきた。メヒティルトさんに話を伺う前に、私がこの方と出会った経緯について説明してみたいと思う。
2000年の秋にベルリンにやって来た私は、最初の半年間ノレンドルフ広場にあるハルトナック・シューレというドイツ語学校に通っていた。私がいたクラスには、ジュンさんという私より何歳か年上の日本人がいた。ジュンさんはシャルロッテンブルクの西側の住宅街に住んでいて、アパートの親切な大家さんの話を何回か聞くことがあった。ある時ジュンさんはその大家さんに、「自分はドイツ語の学校に通っているが、実際にドイツ語を話す機会があまりない。何かいい機会はないだろうか」という相談をしたらしい。すると大家さんは同じ階に住むドイツ人の老夫婦を紹介してくれた。「彼らなら時間もたくさんあるだろうし、いい話し相手になってくれると思うわよ」。そういうわけで、ジュンさんは時々その夫妻を訪ねることになったという。
2001年の1月だったと思う。ドイツ語の授業が終わって、お昼を一緒に食べていた時、その話になった。今日もこれからその夫妻に会いに行くという。その場には私の他に、韓国人のHさんとYくんがいた。私も含めてみんなドイツに来たばかりで、ドイツ人の友達と呼べる人はまだほとんどいなかったから、みんなジュンさんのことを少しうらやましく思った。その日の午後、特に用事もなかった私たちは、好奇心からアポなしでジュンさんに付いていくことになったのである。
いきなり見知らぬアジア人が3人もやって来て、フレンツェルさんご夫妻はさすがにびっくりしていたが、快く中に入れてくれた。紅茶とケーキをいただきながら自己紹介も兼ねて、いろいろな話をした。私たちはすぐに打ち解けることができた。そんなことから、毎週金曜日の午後、アジア人4人が彼らの家に遊びに行って、お茶を飲みながらおしゃべりするという会が始まった。話す内容は本当に様々で、時事的な話題だったり、日本や韓国のことを紹介したり、逆にドイツの伝統的な文化や習慣について教えてもらったり、なんだかんだで話題は尽きることがなかった。大家さんのメヒティルトさんも途中からやって来ることが多かった。夕飯をご馳走になることもあったし、私たちにとってはドイツ人の家庭の雰囲気に触れられる貴重な場でもあった。最初の2年間はほぼ毎週のように私たちは集まり、ジュンさんが日本に帰ってしまった今も、月に1回の割合でこの会は続いている。ドイツ人でこれだけ息の長い付き合いのある人は、他にほとんど思いつかない。
彼らの住むアパートは外観こそごく普通なのだが、大切に住まれ続けてきたということがよく伝わってくる。まず目に付くのは、入り口付近に飾られているこの写真だ。これは100年前のこの周辺の様子から終戦直後、そして現在に至るまで、アパートが歩んで来た歩みを示す貴重なドキュメンタリーになっている。全て大家のメヒティルトさんが丹念に集めたものだ。
そして、各階の部屋の入り口にはアパートに歴代住んだ人々の写真が飾られている。ベルリン広しといえど、こんなに住む人の思いが伝わってくるアパートというのは他に見たことがない。
メヒティルトさんは1歳の時にこのアパートに越して来て以来、現在に至るまで何と50年以上に渡ってここに住んでいるという。彼女に聞いてみたいことはたくさんあった。
(つづく)

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